伊藤野枝(1895-1923年)の鮮烈な生涯を描いた「風よ あらしよ」(原作:村山由佳、演出:柳川強、主演:吉高由里子)を鑑賞してまいりました。
家制度のもとで美徳とされていた女性の生き方(三従の教え、良妻賢母など)に、怒りとやるせなさを抱えていたノヱは、内縁夫の辻潤(1884-1944年、役:稲垣吾郎)、青鞜社を創設した平塚らいてう(1886-1971年、役:松下奈緒)、無政府主義者の大杉栄(1885-1923年、役:永山瑛太)らに出逢い、男女同権の実現を言論活動を通して力強く訴えかけます。
私の研究分野との関連でもう少し掘り下げると、野枝が取り上げるテーマの中には「婚姻制度」「貞操」「堕胎」「売春」などがあり、女性を劣位に置いていた当時にあってそれを批判するのはなかなかにチャレンジングなことでした。ましてや治安警察法により政治運動への規制が敷かれていた時代に、これらの問題を正面から突き付け人々の目を覚まさせようとする勇敢な姿に、彼女の生き方が現れているように思います。
その後、1923年に関東大震災が発生。「朝鮮人が井戸に毒を入れた」といった流言飛語が飛び交う社会混乱の最中、社会主義革命を恐れていた憲兵らに、危険分子を抹殺する好機としてとらえられ、暴行・絞殺され、古井戸に遺棄されるという凄惨な最期を迎えます。天下の悪法・治安維持法が制定されるのは、この甘粕事件から約1年半後のこと。日本社会は、自由と平等を希求する者にとり耐えがたい暗黒の時代に突入します。
権力との闘いと数多の犠牲のうえで勝ち取られた言論の自由を有り難く思う傍ら(昨今はそのように思うことすら少ないのでしょうか)、矢面に立つ先駆者たちへの誹謗中傷や数の暴力で封じ込める所業は日々繰り返されています。「女のくせに」という呪いの言葉もいまだこの社会のなかに生き続けています。夢半ば、28歳という若さで散った彼女の目に、現代社会はどのように映っているのでしょうか。
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